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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)4918号 判決

原告

〓田フサ

被告

内海金治

主文

被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和三十年一月七日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告其の余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を被告の、その余を原告の負担とする。

この判決は原告において被告の為金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

被告の被用者訴外松浦菊雄が、原告主張の日時場所においてその運転するオート三輪車で自転車に乗つていた原告の二女〓田直枝の後方から追突し、同人を路上に転倒させ、同人に対し原告主張の傷害を生ぜしめ因て脱血死に至らしめた事実は当事者間に争がなく、成立に争がない甲第二号証及び証人松浦菊雄の証言によれは当時被告は貝類の問屋をしており、当日松浦は被告のため大森の貝類市場に貝類の仕入に赴いた帰途本件事故を惹起したものであること、松浦は事故現場約十米又は十五米手前において道路の左端に在る直枝を認めたのであつて、直に右方に回避して進行すれば本件事故を防止しうる状態にあつたこと及びその際、松浦は単に警音器を鳴らしたのみで、そのまま車を進め、直枝に追突するに至つてはじめて制動器をかけたことを認めることができる。而して、すべて公道上においてオート三輪車を運転するものは、その前方に自転車の進行するのを認めた場合には警音器を鳴らしてこれに警戒を与え交通の安全を確認した上その右方を追い越すか又は減速してこれと相当の間隔を保ちつつ追越の機会を待つ等事故の発生を未然に防止する注意義務があるにも拘らず、本件において、松浦はオート三輪車を運転しつつその前方に自転車に乗る直枝を認めながら単に警音器を鳴らしたのみでそのまゝ車を進めそのため本件事故を発生せしめるに至つたのであるから、同人に前記注意義務違背の過失があつたことは明かで、松浦が被告の被用者で右事故が被告の業務に従事中に惹起されたものであることは前に認定した通りであるから被告は原告に対し松浦の右不法行為に基ずく損害賠償を為す義務がある。

次に、当時直枝が十二才であつたことは当事者間に争がなく、原告本人尋問の結果によれば直枝は原告の二女で平素極めて健康で事故当時は小学在学中だつたことを認めることができるから原告が直枝の死亡によりその精神上受けた苦痛の甚大であつたことは自ら明かで、原告と直枝との身分上の関係その他本件に現れた諸般の事情を斟酌しその慰藉料の額は金二十万円を以て相当と認める。従つて被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和三十年一月七日から右支払ずみに至まで年五分の割合による遅延損害金の支払を為すべき義務があるというべきである。

よつて原告の本訴請求は右の限度で之を認容すべきであるが、その余は理由がないから之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾巖)

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